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けいすけコラム【デジタルで 便利になります 遺言書?】

近年、私たちの生活に深く根付いたデジタル技術。ついに遺言書の世界にも変化をもたらそうとしています。

紙と印鑑が常識だった遺言制度に「電子化」という新たな選択肢が加わろうとしています。
遺言書作成のハードルの高さ、そしてより多くの人が自らの意思を簡便に、かつ確実に残せるようにしたいというニーズの高まりもあり、注目です。

今年の7月9日の日経電子版の下記の記事が掲載されました。

デジタル遺言書の解禁、「録画・証人」要件に 法制審が制度案提示へ – 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA061430W5A700C2000000/

7月16日に朝日新聞の電子版にも同じような報道がされています。

遺言書デジタル化、容認へ複数案盛る 法制審部会:朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/DA3S16258552.html?iref=pc_ss_date_article

現行の遺言制度はご存じのとおり、自筆証書遺言と公正証書遺言の主に2通りです。自筆証書遺言は全文、日付、氏名を自筆で記載することと押印が要件です。公正証書遺言は証人2名の立会いの下、公証人に口授することなどの要件が民法で定められています。

今回の報道によると、上記に加えてパソコンやスマホで作成したデジタルデータ及びプリントアウトした書面で遺言書を作成できるような法改正が検討されているということです。具体的な方法は複数提案されています。

1.デジタル遺言書の全文を証人2名のまえで読み上げて、その状況を録画する方法。ちなみに配偶者などの推定相続人は証人にはなれません。これは現行の公正証書遺言でも同様です。

2.全文を朗読しているところを録音するなどしたうえで、不審な動きを察知するスマホのアプリなどを使ってもらい、本人が読んでいることを裏打ちする方法。

3.遺言書のデータもしくはプリントアウトした書類を公的機関に提出し、本人確認のうえで保管する方法。法務局で全文を読み上げることを想定しているようです。

デジタル遺言の導入の狙いは、遺言制度の選択肢を増やして利便性を高めることだそうです。

さて、皆さんの印象はいかがでしょうか。遺言書の内容にもよりましょうが、私はむしろ自筆のほうがラクなのではないかと感じてしまいました。たとえば、「私の全財産を配偶者○○に相続させる。」といった内容であれば、明らかに自筆のほうが手間がないと感じました。

一方で、紛失のリスクなどを減らせる効果も見込まれています。こちらは手書きの遺言書よりも、紛失や改ざんなどのリスクは減らせそうです。私は、利便性と紛失や改ざんのリスクはトレードオフの関係にあると考えています。簡単に作れるようになれば、紛失や改ざんのリスクは高まります。公正証書のように作成の要件を厳格にすれば紛失や改ざんのリスクは低くなる代わりに、気軽には作れなくなります。

私の印象では、デジタル遺言は、自筆証書よりもさらに簡便な制度を用意したというよりは、自筆証書遺言と公正証書遺言の中間に位置するような印象です。選択肢が増えるという意味ではよいと思います。来年の民法改正を目指すそうですが、改正後はお客様のニーズに合わせた提案を心がけようと思います。

なお、朝日新聞の記事には、ひっそりと次の一文が添えられていました。「今回の見直し議論では、自筆の遺言書で押印を不要にするかも検討中だ。」私は押印がなくて無効になった自筆証書を実際に見たことがあるので、この改正はもろ手を挙げて賛成です。